ウミホタルの生態
(2)ウミホタルの食性



 

■飼育の餌に関する実験

<ウミホタルの食性実験(1)>
(実験方法)
 この実験は、かつて実験的に生きたゴカイの仲間(ここではアオイソメを使用)を与えてみたところかなりの食いつきの良さ、食べ具合からして、ウミホタルは生物の死骸しか食べないのではないらしく幅広い食性を持っている可能性があるのではないかと思い、いろいろな餌を与えたときの様子を観察した。

(観察結果)
 実際にウミホタルに餌を与えたときの様子を表にまとめると次のようになる。
 なお、摂食とは、ウミホタルが餌に張り付いて餌を食べている様子のことをいう。
餌の種類
摂食の度合
食べる様子やその後の様子
備考
アオイソメ+++ 入れると同時に多数のウミホタルが1匹の生きたアオイソメに食らいつく。しばらくすると、砂の中に潜っていたはずのウミホタルまでが出てきて、アオイソメはウミホタルの塊と化す。食べ尽くした後にはアオイソメの外皮のみが残っている。食後のウミホタルには特に変わった行動は認められなかった。釣り餌
ミミズ++ アオイソメよりも餌に寄り始めるのが遅いが一度餌に寄り始めると後はアオイソメにも匹敵するほどの勢いで食べる。
ヒトの指 かなりの数のウミホタルが指に寄ってきた。しかも寄ってきてすぎにいなくなるのではなく、しぶとく食べようとしていた。そのうちの数個体は爪の間にも入り込もうとしていて、被験者のOさんは、「むずがゆくて、何かやすりのようなもので削られているような感じがした。もし、そこが口の中など皮膚の弱い部分や粘膜の部分だったら、間違いなく食われていただろう。」と、その時の事について述べている。
ヒトの腕 次の二人目の被験者であるTさんは、「腕を水槽の中に入れていたら、たくさんのウミホタルが徐々に腕の上の方にやってきて、皮膚の薄い部分に集中して張り付き、ブヨか何かに刺されたような痛さで、とても痛かった。」と、恐怖について語っている。
レバー+++ 集まり具合は良い。但し、食べている時間はゴカイ類の時に比べ非常に短い。時々、食べた後、ウミホタルが一時的に動かなくなってしまうことがある。牛、豚、鶏では、豚のレバーの方がより好む傾向にある。
シラウオ++ 餌への集まりが結構良い。ウミホタルが周りに寄って、餌がうっすらしか見えない程度。しばらく食べていた後にはシラウオの骨だけが残っている。食品用
ヒメエビ(乾燥) 寄ってくるというよりも、確かめに来るといった感じ。軽く触れるだけのようですぐにいなくなる。食品用
かつお節(削り節) ヒメエビと同じように確かめにくるだけで特に変わったことは認められない。
ちくわ+++ 餌への集まりも摂食も非常に良い。しばらくすると、ちくわの表面がボロボロになっているのが確認できる。出典論文の原文にはちくわの記載はないが、今回、新たに追加記載した。
 現在では、採取、飼育両方にちくわを使用している。
ニボシ++ 餌への集まり具合は悪くはない。しばらくの間、食べるウミホタルもいるが、長時間食べ続けるウミホタルは少ない。以前、飼育用の餌として使用していた。
生イカ+++ かなりの数のウミホタルが食べていて、イカが見えなくなるくらいだった。食べられた後の餌はまるで糸くずのようになっていた。食品(刺身用)
キュウリ
レタス
 餌によるというよりも確かめるといった感じであるが、少し食べた後にウミホタルが一時的に動かなくなってしまうことがある。適当な大きさに切って与えた。
ワカメ 数個体のウミホタルが寄ってきて。明らかに食べている様子がうかがわれた。食後も特に変わった様子は認められなかった。
米(炊いたもの)++ 予想外に寄り具合が良くしばらく食べていた後にはふやけてばらばらになった米が残った。食後のウミホタルにも変わった様子は認められなかった。やはり日本のウミホタルは米が好きなのだろうか?
米(炊く前) 炊いた米とは違って、ただ確かめに来るだけだった。
クリ(ゆでたもの) 何個体かのウミホタルが寄ってきて食べた。
納豆± ほとんどが確かめに来るだけだった。一部のウミホタルが食べたようで、海中で糸のようなものを引きながら泳ぐウミホタルの姿が観察できた。
はっか飴 ウミホタルが近づいて、飴に接触した瞬間に、ウミホタルが底に沈み、5秒から長いものでは30分間動かなくなってしまった。
インスタントラーメン++ かなりの数のウミホタルが寄ってきて食べた。サッポロ一番・味噌
正露丸® 寄ってきて、正露丸に接触した途端に、かなりのスピードで逃げる。大幸薬品
寒天 ほとんど寄ってこない。約2%の何も入れていない寒天
ヒトの糞 近寄るがすぐに逃げる。
 この実験は、ウミホタルに食われた被験者のTさんの協力による。どういう訳か、3ヶ月ほど前のものが、管ビンに保管してありそれを使用した。色は黒っぽく、実感やわらかい感じがした。
表1.ウミホタルの食性

 以上のような結果となった。

<ウミホタルの食性実験(2)>
(実験方法)
 クリ、ワカメ、納豆、米(炊いたもの)を入れていきどれを一番よく食べるかを調べるために実験を行った。

(観察結果)
 (1位)米(炊いたもの)
 (2位)クリ
 (3位)ワカメ
 (4位)納豆
 以上の順によく食べた。この方法は餌の順位を決定していくのに大変有効である。

図1.アオイソメを摂食するウミホタル図2.ワカメを摂食するウミホタル


図3.米(炊いたもの)を摂食するウミホタル図4.納豆を摂食するウミホタル


図5.ゆでた栗を摂食するウミホタル図6.ヒトの指を摂食しようとするウミホタル


<ウミホタルの食性実験(3)>
(実験方法)
 ウミホタルは何に反応して餌に寄ってくるのかを調べるために、可溶性デンプン、ほんだし(味の素株式会社)、ヒマシ油を寒天に混ぜとかし、固めたものを、ウミホタル10個体入りのビーカー(500ml)に5分間入れて観察した。(但し、ひまし油に関しては、寒天が固まる寸前までかき混ぜ続け、できる限り寒天中に混ざるようにした。)

 実験に使用した寒天は
   水…………500ml
   寒天………10g
   海水の素…18g
 を含み、これを熱で溶かしたものに、デンプン、ほんだし、ヒマシ油をそれぞれ1gずつ溶かした。(但し、ヒマシ油に関しては前述の通り)
 海水の素は、ウミホタルを飼育している海水にできるだけ近い濃度にするために寒天に混ぜた。

(観察結果)
 結果は以下の表のようになった。
入れたときのウミホタルの様子
何も入れない寒天 全く近寄らなかった。
ほんだし入り寒天 ほとんどのウミホタルが、入れた途端に反応し、食べようとした。
味の素入り寒天 ほんだしには劣るものの数個体のウミホタルが寄ってきた。しかし、しきりに食べようとまではしなかった。
デンプン入り寒天 ほとんど反応が無く、時々ウミホタルが近寄ってくるのが認められたが、食べようとはしなかった。
ヒマシ油入り寒天 全く近寄らなかった。
表2.寒天に混ぜ込んだものによるウミホタルの反応の違い

 この結果より、ウミホタルは「ほんだし」に近づくことがはっきりと分かった。しかし、ほんだしにはアミノ酸等の様々な材料が混ぜられているので、その中のどの物質に反応しているのかは不明であるが、味の素には数個体しか近寄らなかったことから、味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウム、リボヌクレオタイドナトリウム以外の物質であることが考えられる。
 また、デンプンでは、さほどはっきりとウミホタルが近づくことを確認できない。米やクリに食いつくウミホタルが、デンプンのみになると食いつかないのはおもしろい。
 さらに、ヒマシ油には全くウミホタルは近寄ってこないが、他の油でも同様になるのか興味深い。


■考察

 かつて、ウミホタルは主に魚などの死肉を食べるといわれていた。しかし、こうした実験により、ウミホタルは幅広い食性を持っていることが明らかとなった。1個体ではなかなか歯が立たない生物でも、たくさんのウミホタルが集まれば、生きたゴカイですら食べてしまう。ヒトの指でさえ例外ではない。また、米やワカメといった植物性の食物に対しても摂食行動をとることが明らかとなった。
 この実験で1つ気が付いたことがあるが、ウミホタルの入った水槽に何かを投入すると、たいてい、近寄ってきて確かめるような行動をとるのである。これがいかなる行動であるのかは定かではないが、おそらく、危険がないか、食べられるかの判断をしているのではないだろうか。
 ※出典論文の原文には、ウミホタルの食性についての考察は存在しないが、ホームページ掲載にあたり、編集者の考察を掲載した。


■食べながら光るのか?

 結論から言うと、ウミホタルは摂食行動中は光らない。たとえ、ウミホタルショーで使うようなパルス波刺激を行ったとしても、摂食行動中のウミホタルは発光しない。なぜなのかはまだはっきりとしていないが、おそらくウミホタルの摂食器官と発光物質を分泌する腺組織が解剖学的に、近くに存在するためなのではないかと考えられている。
 また、このことから、ウミホタルの発光物質は、もともと消化酵素だったものが進化の過程で発光物質に変化したのではないかという説もある。1)


■参考文献

(1)阿部勝巳,1994.海蛍の光.ちくまプリマーブックス78.


■出典

千葉県立幕張西高等学校科学同好会,1992.刺激に対するウミホタルの応答.第36回日本学生科学賞入選1等作品.より抜粋。
なお、ホームページに掲載するにあたり、一部再編集を行っています。


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