ウミホタルの生態
(3)ウミホタルの発光
■さまざまな刺激に対するウミホタルの発光応答
ここでは、さまざまな刺激に対して、どのような発光応答をするのかについて解説を行う。
まず、飼育下での観察や採集時の観察により今まで私達が確認した発光パターンをまとめてみた。
(A)瞬間発光パターン
水面近くで、まさしくピカッと一瞬の光を発することがある。光は強く、短時間に発光が終了し、光が尾を引いたり、発光雲(※)が残ったりしない。
※発光雲:発光雲とはウミホタルが吐き出した発光液によって、周囲にもやがかかったように見えることをいう。
(B)回転発光パターン
水面で小さな円を描くように泳ぎながら連続発光する。光は強く、尾を引き、数秒続く。らせん発光とは区別される。
(C)らせん旋回発光パターン
ウミホタルが海面まで上昇し、海面近くで輪を描くように発光し、再び下降していく。
(D)水平移動発光パターン
水中をまっすぐ平行方向に移動しながら連続発光する。光は強く、尾を引き、数秒続く。
(E)垂直落下発光パターン
水面間近から突然発光し、そのまま落下しながら数秒尾を引きながら連続発光する。光は強く、尾を引きながら数秒は続く。
(F)定点連続発光パターン
水底近くであまり大きくは動かず、連続発光する。光は普通で、かなりはっきりと発光し、発光時間は長い。
(G)未成熟個体の弱連続発光パターン
上下左右自在に移動しながらやや弱い光を連続発光し、うっすら尾を引き続ける。
(H)強烈発光パターン
場所は不定で、突然強烈な光を連続して発光する。光は強烈で発光液を多量に吐き出す。そして周囲には青紫色のうっすらとした発光雲が残る。
(I)定点連続弱発光
死んでしまったウミホタルが数時間にわたり、ごく弱い連続発光をする。飢えているウミホタルが近くにいると餌として襲われ、食われる瞬間には明るく発光する(死んだウミホタルの発光腺が食べられたときに発光が起こるため)。
<実験:温度差刺激>
ウミホタル(採取日不明、館山湾)に4段階の温度差刺激を与え、発光応答の様子を記録した。実験は1時間おきに24時間行った。
(実験方法)
基本温度21度から19度、17度、15度、13度と温度差をつけた海水を保温容器の中に入れる。
そこへウミホタルを1個体ずつ合計5個体投入していく。このときにウミホタルへ別の刺激(例えば圧力、振動、空気接触)が加わらないように十分注意した。(実験実施日 1992年5月23〜24日)
(観察結果)
結果は以下の表の通りである。なお、発光個体数は5個体中。
実験時刻 | 発光個体数 (21度→19度) | 発光個体数 (21度→17度) | 発光個体数 (21度→15度) | 発光個体数 (21度→13度) |
16:30 | 0 | 0 | 1 | 0 |
17:30 | 0 | 1 | 1 | 3 |
18:30 | 2 | 1 | 1 | 0 |
19:30 | 0 | 2 | 0 | 0 |
20:30 | 2 | 1 | 2 | 3 |
21:30 | 0 | 1 | 1 | 2 |
22:30 | 3 | 0 | 1 | 1 |
23:30 | 1 | 1 | 1 | 4 |
00:30 | 1 | 0 | 2 | 5 |
01:30 | 0 | 3 | 3 | 0 |
02:30 | 2 | 0 | 0 | 1 |
03:30 | 1 | 1 | 2 | 4 |
04:30 | 0 | 2 | 3 | 1 |
05:30 | 0 | 1 | 0 | 0 |
06:30 | 0 | 1 | 1 | 0 |
07:30 | 0 | 0 | 1 | 2 |
08:30 | 0 | 1 | 0 | 2 |
09:30 | 0 | 1 | 0 | 1 |
10:30 | 0 | 1 | 1 | 1 |
11:30 | 0 | 0 | 0 | 1 |
12:30 | 1 | 1 | 1 | 0 |
13:30 | 1 | 2 | 0 | 0 |
14:30 | 0 | 0 | 0 | 0 |
15:30 | 0 | 1 | 0 | 2 |
表1.温度刺激による発光個体数(5個体中)
結果より、温度差が大きくなれば、ウミホタルの発光率は上がってくるが、温度差にかかわらず、刺激する時間帯によって発光率が変化することは大変興味深い。
<そのほかの刺激>
温度差刺激以外にも、次のような刺激でウミホタルは発光する。
(1)電気刺激
ウミホタルに電気刺激を与えると、強烈に発光する。ただし、発光させるためには、サイン波(いわゆる交流)や、トリガー波、パルス波といった特殊な波形のものが必要である。また、波形や電圧により若干発光パターンに差が認められるが、基本的には、強烈発光パターンを示す。
ウミホタルショーでは、パルス波(または、それに類似した波形)により刺激を行っている。サイン波ではウミホタルにダメージを与えてしまうことが多いが、パルス波ではウミホタルにダメージを与えることはほとんどない。(「ウミホタルとは」のページにて動画公開中。)
(2)圧迫刺激
軽く指でウミホタルの殻をはさみつけるように押さえつけると良く発光応答する。また、ウミホタルを何個体か金魚網などに入れ、10cm位上から海水を流し込むと網を通して多量の発光液が流れ出し、光の滝ができるほど激しく発光応答する。(「ウミホタルとは」のページにて動画公開中。)
(3)空気暴露刺激
海水中からウミホタルをすくい上げ、金魚網などに放置すると、連続的にやや明るく発光し続ける。
(4)打撃刺激
水槽などに入れたウミホタルを、棒やエアレーションしながらエアストーンでかきまわすと、打撃された時にかなり強烈に発光応答する。
(5)超音波刺激
試験管等にウミホタルを海水ごと数個体入れ、超音波洗浄機の中で超音波をかけると、かけた瞬間から強烈な発光応答をする。あまり超音波を強くすると、ウミホタルが粉砕してしまうのでかけ過ぎには注意が必要である。
(6)薬物刺激
過酸化水素(H2O2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩酸(HCl)、アンモニア(NH3)、硝酸(HNO3)、エタノール(C2H5OH)をそれぞれ適量、ウミホタルの入った海水中に加える。加えた瞬間に良く発光する。しかし、すぐにウミホタルが死んでしまう場合もある。
■出典
千葉県立幕張西高等学校科学同好会,1992.刺激に対するウミホタルの応答.第36回日本学生科学賞入選1等作品.より抜粋。
なお、ホームページに掲載するにあたり、一部再編集を行っています。
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